ミモザの朽ち木

――こんにちは。


彼が声をかけると、彼の存在に気づいた父親が挨拶を返し、母親も彼の姿を認めて会釈した。


父親が彼に話しかける。


――やあ、これは、じつに見事なミモザですね。これほど立派に花をつけているものは中々お目にかかれない。見惚れてしまいますよ。


彼が同意してうなずくと、父親は話を続けた。


――ここにはよく来られるんですか?


――ええ、週末はいつもここにいます。


――そうですか。それにしても、こんな所にこんな植物園があったなんて、今日まで気がつきもしませんでしたよ。いつも通りがかってるはずなんですがね。


――ここはあまり人に知られていない場所のようです。


――なるほど。どうりで、ほかに誰も見当たらないわけだ。


彼と父親はしばらく談話を続け、時折母親が相づちを打っていた。

一方、娘はミモザには大して興味もない様子で、その辺りを退屈そうに歩き回っていた。


平穏な日々を過ごす平凡な家族。

彼の目にはそう映った。

世間一般で言うところの、幸せな暮らしを型通りに実践しているのかもしれない。

しかし彼は、この三人がまるで疑いもなく安穏として日々を過ごしていることに、どうにも釈然としないものを感じた。