ミモザの朽ち木

彼は今、打ち捨てられた植物園にいる。


なだらかな丘の上にロータスを止め、フロントガラス越しの景色を運転席で静かに眺めていた。

周囲は様々な木々や草花が見渡すかぎりに広がり、混じりけのない新鮮な空気が充満している。


彼は週末になると必ずここを訪れ、無数の命に満ち溢れたこの場所で、様々な命が朽ちていく様をただ傍観していた。

むろん、木々や草花が次々に枯れていくわけではない。

一日中眺めていたところで、おそらく人の目には何の変化も捉えることはできない。

それはとても長い時間をかけて、ゆっくりと着実に失われていく。

しかしそれでも彼は、朽ちていく命をしっかりと実感していた。


彼が週末以外の日にどこで何をしているのかは誰も知らなかった。

もしかすると、彼自身も知らないのかもしれない。

あるいは彼は、永遠に続く週末の中にいるのかもしれない。

確かだと言えるのは、彼がここいる時は必ず週末であって、そして彼以外には誰もやって来ないということだった。


ロータスの正面には、この一帯でひときわ目立つミモザの木が立っている。


黄色いポンポン状の花房を樹冠一杯に広げて、見るからに生命を発散させながら誇らしげにそびえている。

だが、この鮮やかに咲き乱れるミモザの木も、いずれは色あせて枯れ果て、やがて土に還る。


彼はその様子をここでじっと見守っているのだった。