ミモザの朽ち木

あたしはパパの上に乗った。

そして倒れ込むようにしてパパに覆いかぶさり、ベッドのすみにゆっくりと手を伸ばす。

そこにはカンガルーの縫いぐるみがある。

あたしはカンガルーのお腹のポケットに手を入れて果ものナイフをつかみ取る。

そのまま体を起こして勢いをつけ、パパののどにそれを突き刺す。

パパはかっと目を見開いて一度だけうめき声を上げる。

ナイフを引き抜くと、のどから噴水のように血が吹き上がり、パパが手足をばたつかせる。


今度はお腹を刺した。

刺して、抜いて、刺して、抜いて。

見る間にシーツは血で染まり、そのうちベッド全体が赤くなった。


あたしはベッドから下りると、部屋のすみっこにあるストーブ用のポリ容器を取りに行き、真っ赤になったパパに灯油をかけた。

それから机の引き出しを開けてオイルライターを取り出し、火をつけてベッドに放り投げる。

シーツに引火すると、ベッドの上が静かに炎に包まれた。


あたしはカンガルーの縫いぐるみを脇にかかえて、焼けていくパパを見守った。

炎の中にいるパパがこっちを見たので、あたしは優しく微笑んで言ってあげた。


「サヨナラ」


窓の外を見ると、ふわふわとした真っ白な雪が音もなく降っていた。

その年初めて降った十二月の雪は、あたしが見たどんな雪よりも白くてきれいだった。


これで悪夢は終わった。

長い長い、途方もなく長い悪夢だった。

あたしは平穏な日々を取り戻し、そして自分自身を取り戻す。

きっとこれからは、あたしにもみんなと同じ日曜日がおとずれて、みんなと同じように笑うことができるはず。


もう二度と、パパが階段を上がってくることはないのだから。