ミモザの朽ち木

「先生、あたしって母子家庭でしたよね?」


「なにを言ってる。乃村のご両親は健在じゃないか」


「先生は、あたしのパパに会ったことがありますか?」


「あるとも。乃村のお父さんとは三度も会った。それぞれ異なる場所で」


「……そうですか」


おかしくなってしまったのは、やっぱりあたしの頭なのかもしれない。


「パパが怖いんです」


「全部、話してみろ。誰にも言わないと約束するよ」


あたしは乙ヶ部の顔を見た。

まともに目をあわせるのはこれが初めてのような気がする。


なにも映さず、なにも見ていない、まるで闇のような瞳だった。

目の前にいるあたしすら見ていないように思える。

けれどもその瞳は、すべてを知っているとあたしに語りかけていた。


話せば楽になれる、そう思った。

だからあたしは、あたしの中にあるもうひとつの真実を全部話すことにした。