ミモザの朽ち木

気がつくと辺りは真っ暗で、街灯の明かりがあたしの座るベンチをまるく囲んでいた。

その明かりの中に、誰かの足が入ってくる。


「乃村じゃないか。こんな時間にこんなところでなにをしている?」


その男が乙ヶ部だと気がつくまで少し時間がかかった。

うす明かりの中にたたずむ乙ヶ部は、存在感がないというよりも、存在そのものが希薄だった。


ベンチから腰を上げるなり、ひどい立ちくらみがして倒れそうになった。

乙ヶ部があたしの体を支える。


「おい、大丈夫か乃村」


あたしはなにかを言おうとしたけれど、うまく声が出せなかった。


乙ヶ部はあたしの腕を自分の首に回すと、そのままけが人を引きずるようにして歩きはじめた。


「先生の家はこの近くなんだ。ちょっと休んでいきなさい」


断る気力もなかったが、乙ヶ部の家に泊めてもらうのも悪くないと思った。

パパのいる家に帰るよりも百倍はましだ。