ミモザの朽ち木

流利子はキッチンで夕飯の支度をしていた。

ジャガイモの皮をむきながら俺のほうをちらりと振り返り、「おかえり」と素っ気ない声で言う。


俺はその場でしばらく流利子の後姿を眺めていた。


「どうしたのよ? ぼうっと突っ立って」


「なかなか、様になってるじゃないか」


「なにがよ?」


「……エプロン姿だよ」


「馬鹿じゃないの?」


俺は寝室へ行き、スーツを脱いでスウェットに着替えた。

するとそこで見慣れないものを発見した。

ナイトテーブルの上にアクリルのフォトフレームが飾られてある。


見覚えのない一枚の写真――。

樹冠一杯に広がる黄色いポンポン状の花房。

ミモザの木だ。

俺と流利子とひかるの三人が、ミモザの木の下に並んで立っている。

写真を手に取り、隅から隅まで仔細に眺めてみるが、いつどこで撮ったものなのか全く思い出せない。


俺はため息をついてフォトフレームを元の場所に置いた。

今さら少々のことでは驚かない。

おそらく、これからも不思議なことが次々と起こるに違いない。

けれどもその予感は、決して俺に不安を抱かせるものではなかった。