ミモザの朽ち木

パパは当たり前のようにそこにいて、当たり前のような顔で食事をしていた。

味噌汁をすすりながらちらりとあたしを見たが、とくになにも言わなかった。


あたしはママのとなりに座って食事をはじめた。

そこにいるパパは、少なくともあたしが覚えているパパとなんら変わりはなかった。

パパにそっくりの別人でいてくれたほうがよかったのに。


箸を動かしつつ、それとなくパパの様子をうかがっていると、突然パパがあたしのほうに顔を向けた。


「珍しいじゃないか、ひかる」


ビクリとした弾みでポテトサラダがのどに詰まり、あたしはむせ返りそうになった。

ウーロン茶をひと口飲んで、なるべく落ちついた口調でこたえる。


「珍しいって、なにが?」


「今日は携帯電話をいじくってないんだな」


そう言って、パパはにやりと笑った。


その顔を見てぞっとした。

あの日のパパが頭をよぎって、全身に鳥肌が立った。


「ごちそうさま……」


あたしは箸を置いて立ち上がった。


「ごちそうさまって、ほとんど食べてないじゃないの」


驚いた顔でママが言う。


「もういらない。ちょっと気分悪いから」


あたしは逃げるようにダイニングを出て二階に上がった。