ミモザの朽ち木

「……ごめん、大丈夫?」


ひかるはゆっくりと顔を上げ、大きく目を見開いた。


あたしを殺したくせに――。


ひかるの声。

今、確かに、そう聞こえた。

けれども、ひかるは口を開いていない。


あたしを殺したくせに――。


頭の中で声が響く。


よく言えるね――。

あたしを堕ろしたくせに――。

自分だけ助かろうとしたくせに――。

あたしを殺したくせに――。


ひかるの猛禽類のような瞳に吸い込まれそうになり、立っていられないほどの強烈な目まいに襲われた。

唐突に込み上げる嘔吐感。

よろめき、壁に体を預けながら、私は洗面所に向かった。

体中の毛穴からどっと汗が吹き出し、ひどい寒気がして全身が震えはじめる。


あたしを殺したくせに――。

あたしを殺したくせに――。

あたしを殺したくせに――。


私は頭を抱えてうずくまり、ひかるの声が聞こえなくなるまで必死に耐え続けた。