玄関先で呆然と立ち尽くしていると、寝室から目覚まし時計の鳴る音が聞こえた。

寝室の戸が開き、大あくびをしながら比佐史が出てくる。


「おはよう流利子。……どうした? そんなところにぼうっと突っ立って」


「ひかるが居たのよ、ひかるが……」


「居たって、どこに?」


「今、そこによ!」


「……どういう意味だ? 流利子、コーヒー淹れてくれ」


呆けた顔でそう言うと、比佐史はそそくさとトイレに入った。


ヒステリーを起こしそうだった。

私はトイレの前で待ち構え、比佐史が出てくるなり、もう一度言って聞かせた。


「ねえ比佐史、ひかるよ。私たちの……あの、ひかるが居たのよ」


「だから、それが何だって言うんだ? 自分の娘が自分の家に居て何が悪い」


寝癖の頭をぼりぼりとかいて、比佐史はダイニングに入った。


非現実的な何かが起きている。

今の私に理解できるのはそれだけだった。