食卓につくと、死んだはずの妻がコーヒーを運んできた。


どうやら俺はまだ、夢の中にいるらしい。


「やあ、流利子」

俺が声をかけると、


「おはよう。夕方から雨が降るらしいから、鞄に折りたたみ傘を入れていったほうがいいわよ」

などと言葉を返す。


流利子はテーブルについて、テレビのリモコンを手に取り、朝の情報番組にチャンネルを合わせた。

生真面目な顔で星座占いを見ている。

ただの一度も的中したためしのない、子供だましの星座占いだ。


亡き妻の横顔を眺めつつ、湯気の立つコーヒーカップに息を吹きかけていると、二階から階段を下りてくる足音が聞こえた。

足音の主はスクールバッグを廊下に放り投げ、大あくびをしながらダイニングに入ってきた。


「おはよう、ひかる。見てみろ、お前のママがそこにいるぞ」

と俺は言った。


「はあ? 意味わかんない」


寝起きの顔でひかるは答え、流利子の隣に座って携帯電話を弄くりだした。


「ママ、おととい洗濯かごに入れたピンクのブラジャー、まだ洗ってないの?」


けだるい声でひかるが言うと、


「今日の夕方には乾いてるわよ」


テレビから目を離さずに流利子が答える。


チン、というトースターの音が鳴った。

すると流利子は席を立ち、三人分の朝食をテーブルの上に並べはじめる。

トーストとベーコンエッグ、サラダ、コーンスープ。朝の定番のメニュー。


夢は一向に覚める気配がなかった。