HEMLOCK‐ヘムロック‐

 泉の目は腫れていたが、もう泣いてはいない。むしろ冷静さをとり戻し、独りの間今日の出来事をずっと考えていた。

「みんな泉には“大丈夫”って言うよね。透くんなんか駐車場から息切らす程急いで帰ってきたくせに」


 透はネクタイを緩める手を止めた。泉の言いたい事がよく解らなかった。


「どうしてみんな言葉で安心させようとするの!? ……泉ってそんな頼りないかなァ?」


 泉の目に再び涙が込み上げ、透はギョッとする。


「いっ泉!? えと、?」


「本当の事が知りたい」


「……え?」



「『HEMLOCK』って何? ……泉が聞いたら、透くんや……、みんなが傷つく事なの? 迷惑かな?」


 「HEMLOCK」という単語に透は固まってしまった。


「迷惑な事なら、聞か、ない、ケド、……うっ」


 泉はしゃっくりを上げながら泣き出す。
透は混乱しながら彼女を宥めた。


「違うんだよ、泉! 俺達が『HEMLOCK』について黙ってたのは……、もちろん、泉に深入りして欲しくないってのもあったけど。界も盟も俺を庇ってくれてたんだ」


 泉は勢いから涙が止まらず、返事が出来なかったが、透の言葉が礼二の話と合致し少し心が揺れた。


「俺が前に医者を諦めて、ホストしてた話したろ?」

「……うん」