HEMLOCK‐ヘムロック‐


「アラ、界くんはともかく、元秘書のあたしがどうして意外なの? ホントはあたしが居なくて寂しかったんでしょ?」

「貴女のそう言う発言が原因で、社員の間にヘンな噂が流れるんだ」


 礼二は頭が痛いと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。
 そんな表情も様に成っている秀逸な顔面の造形美が、夕暮れ時のラベンダー色の空に映えている。


「アラー! ごめんねっ! あたしは昔から旦那様一筋よ?
礼二くんも、あの子一筋でしょ? 今も昔も……」

「ゴホンッ」


 礼二は不機嫌そうな咳払いでその話題を終了させた。
詠乃は悪びれた様子も無く、再び話し初める。


「ところで、今の秘書くんは? もう帰っちゃった?」

「あぁ、……城戸がどうかしたか?」


 礼二は何でも無い風に尋ねたが、その眼は泉が『HEMLOCK』について聞きに来た時と同じだった。


「アナタの事だから気付いてるかも知れないケド。出張サービスで“ご忠告”しに来たの」







 ネッシービルジングのエレベーターを降り、透は息を切らして事務所へ駆けつけた。


「泉! 界達は!? もう?」


「……行っちゃった」


「そうか……」


 透は事務所のソファに腰を下ろし、息を整えた。
そうしてからやっと泉の様子に気づいた。


「泣いたのか? 大丈夫だよ。2人共帰ってくるから」