HEMLOCK‐ヘムロック‐





「あの人……」

「ん? どうしたんですか?」


 黒菱探偵社――。
界の兄、礼二の会社。

そのエントランスに設けられているガラス張りの喫煙所に肩を並べ、2人の社員が座っている。

 2人はエントランスを歩く女性を見ていた。


「あの人ですか? 依頼人か外来客じゃないですか?」

「間違いない、鳳至さんだ。鳳至 詠乃さん!」

「ふげし、うたの……さん?」

「社長の前秘書だよ!! 知らないのか? まぁ結構前に辞めたからな。寿退社で」

「はぁ、そうなんですか」


 上司と部下、もしくは先輩と後輩と思われる2人には、詠乃に対する認識に差があった。
が、1つ言えるのは2人共、上品に歩く彼女に目が釘付けであったという事。

 すると丁度、礼二がエントランスの詠乃の元へ現れた。


「社長直々に出迎えですか!?」


「ここだけのハナシ、いい仲だったってウワサだぞ」


「えぇ!? だってあの人寿退社したって……、それじゃあ不倫――」

「しー!! 馬鹿っ。しかも過去のハナシだ」







 礼二と詠乃はエントランスから社長室に向かった。詠乃の7センチヒールが床に軽快に響く。


「今日は界といい、貴女といい、意外な客が多いな」