HEMLOCK‐ヘムロック‐


『店のドアマンとアポロンの存在を知っている“男”を殺しました』

『なんですって!? アポロンを知っている男を、……殺した!?』


 女は釣り目だが、さらにそれをキツく吊り上げる。一重瞼だが、異様な目力だ。
眼力とした方が適切かも知れない。


『その男はアポロンを探していました。アポロンは“鞠 あさみ”と言う女と一緒にいる様で』


 そう言うと男は女に小さな紙を渡した。一哉の名刺だ。


『ピグモ芸能プロダクション、鞠 あさみマネージャー、「豊島 一哉」? ……アポロンが芸能人と?』


 女はフンと鼻息を鳴らし、豊島の名刺をクラッチバックの中の財布に収めた。


『今、カインに「鞠 あさみ」について調べさせています』

『殺したのは惜しかったわ。手足折って連れて来くれば、もっと手っ取り早く済んだのに』

『申し訳ございません、レイイン様。店にアポロンが居るとばかりに』

『ちょっと、名前で呼ばないで。コードで呼びなさい』


『申し訳ございません、“アルテミス”様』



 その時ちょうど黒張りの外車の対向車線にはグレーの車が走り、2つの車はすれ違った。

 たった今外車が走って来た方へ向かうグレーの車には、透が乗っていた。