「……カバン、見てみろよ」
界に言われ、あさみは不思議そうにカバンを漁った。
中から錠剤が入ったビニール袋が見つかる。まず手の動きが固まり、次に彼女の思考が固まった。
「お前達がバーから出た直後にあの男がそれをお前のカバンに忍び込ませてた。
どういう意味か解るか?
もし、お前が薬が入ってると知らずに仕事場なんかにそのカバン持ってってバレたら……」
「警察行きよね。つまり、アポロンにとって私は“もうどうなってもいいヤツ”って事か」
アポロンにカモとして見限られたと悟り、あさみはまた一筋の涙を流した。
界はどう声を掛けていいか解らないまま、黙って運転を続けるしかない。
「ねぇ、アポロンはなんで私なんかにクスリを売ったのかな?
麻薬なんて欲しがるヒト、沢山いるハズでしょ? 私をスキャンダルさせたいだけなら、いつでも簡単にできただろうし。
ねぇ、鞠 あさみだから、じゃなくて“あたしだったから”って思うのはバカかな?」
あさみの問い掛けに、界は心臓が鉛の様に重くなっていく錯覚を感じた。
あさみは騙され、確かに間違いを犯した。
どこかで否定していた現実を突きつけられ、絶望の淵に落とされた彼女。
自分で落ちたのか、
「賢いだけの人間なんて居ねーよ」
いや、きっと、界が突き落としたのだ。
それが彼女の為であると信じて、
そして自分に言い聞かせる為にも、界はハッキリそう言った。
「人様に迷惑かけなけりゃ、いくらだってバカしていいんだ。だから豊島さんには謝っとけよ」

