HEMLOCK‐ヘムロック‐


 そう言って詠乃はホワイトボードを取り出した。
ボードには「VIP」の文字と、界、盟、透、泉、……その他に礼二や知らない名前等が書かれており、それぞれ名前の下には“正の字”で数が書かれている。

盟の数字は4になっていた。


「歌舞伎町の会員制バー「Raiz」の会員名簿、用意出来ませんか?」

「期限は?」

「なるべく早く、出来れば今すぐ」

「盟ちゃんったら、……いつから界くんみたいに無茶言うようになったの?」


 詠乃はホワイトボードの盟の数字に線を3本足した。“正の字”1つと線が2本で、盟の数字は7になった。

ちなみに界の数字は29だ。


「ちょっと待ってて」


 詠乃は奥に消えたが、程なく戻ってきた。手にコピー用紙を分厚く束ねたモノを携えて。


「ハイ♪ 『Raiz』の会員名簿。最近のよ。貸し出し期間は3日間ね」


 正に盟が頼んだ物がそのままの形で出てきた。まるで用意されてたかの様に。

流石にこれには盟も呆気に取られてしまった。


「毎回、毎回……、どうしてあなたはこういう機密情報をポンと出せるんですか!?」

「あらぁ。だって情報屋ですもの」


 サラッと言ったが、その通り彼女は情報屋も生業にしており、様々な裏社会に精通している。
ホワイトボードの名前は彼女の顧客リストなのだ。


(やっぱり魔女だわ。この人)