「泉、私、詠乃(うたの)さんの所に行ってくるから」
「え!? オーナーの所!? 今日居るの?」
「分からないケド、あの人こういう事詳しいハズだから」
盟は興信所を出て、廊下にあるエレベーターでネッシービルジングの最上階、7階へ向かった。
チン。
エレベーターが開くとすぐ、奥に扉が見えた。
看板には「classic BAR 『NESS』」(クラシックバー『ネス』)と書かれている。
扉に掛けられた標識は「OPEN」だ。
盟はその扉を開けた。店内は薄暗く、60~70年代と思しき洋楽が流れている。
高級そうな木製のアンティーク家具に腰掛ける者は誰もいない。
木製の床に盟の足音が響き、その気配に気付いた誰かが声を掛けた。
「いらっしゃい。って、盟ちゃんじゃない! 久しぶり」
バーカウンターからひょこっと、おっとりとした印象の女性が顔出した。
盟よりも線の細い体つきで、モデルを思わせる。
彼女が、鳳至 詠乃(ふげし うたの)
盟と詠乃の付き合い――正確に言うと、黒菱家と詠乃の付き合いは、界が興信所を開くずっと前からある。
初めて会った時、盟はまだ子供であった。

