HEMLOCK‐ヘムロック‐


「……では今もそのバーで男に会いに行ってると?」

「他に心当たりはありません。私は会員ではないのでバーには入れません。お願いします! あさみは利用されているんですっ」


 一哉は、あさみが男にどう利用されているのかは言わなかったが、界にはその意味が何となく読めてきた。


「わかりました。今から鞠様を探して来ます。……透!」

「ああ!」

「盟、泉! そのバーについて洗えるだけ洗っといてくれ。必要だったら森永刑事に連絡……」

「警察には!!」


 界の“刑事”という言葉に一哉は身を乗り出して反応した。


「警察にだけは、連絡しないで下さい!!」

 その悲痛な表情に、界の脳裏に先日の橘 正也の絶望的な顔色が過ぎった。

 本来、さっき盟が言った様に、興信所側が依頼人のプライバシーを口外する事は絶対に無い。

 しかし橘 咲恵の時、界は彼女や正也、そしてその家族の事を考えて、通報と自首を勧めると言う手段を執った。
そうする事が彼らを守る事になると信じて。



 そして自らが追う“闇”から、彼らを遠ざける為にも……。



「約束は出来ません」


 そう言うと界と透は興信所を後にした。






 それを“正義”と信じる事しか、界に報わる術は無い。