HEMLOCK‐ヘムロック‐

 一哉は暫く俯いて黙り込んでしまったが、ようやく界の腕から手を話し、ポツリポツリと話し出した。



「男が、ストーカーと言うのは、嘘、です……。
しかし、あさみを利用しているとんでもない男なんです! どうか、あの2人を引き離して下さい!!」


 あさみと男を引き離す――それが豊島 一哉の本願だったのだ。

 別れ工作を請け負う総合捜査機関は少なく無いが、黒菱興信所ではあまり例の無い依頼である。


 界は依頼として引き受けていいのか躊躇したが、とりあえず詳しく聞こうと、一哉に席を勧めながら尋ねた。


「豊島様は、その男の事はご存知なのですか? 居場所など」

「以前、歌舞伎町の会員制バーで1度だけ会いました。
事務所の社長が会員で、あさみと一緒に連れてってくれたんです」


(そのバーって!! 呈朝会と大石が『HEM』の取引をしていた所だ)


 透だけではなく、全員がそれに気づいていた。特に界の顔付きが変わっていた。


「それから、あさみもそのバーの会員になったらしく、その男とバーで会っているんです」