HEMLOCK‐ヘムロック‐




 その頃事務所では、透が腕時計を見ながら泉の帰りを心配していた。


「泉遅いな。途中、社員さんに会えなかったのかな?」

「まさかアイツ、アニキの会社まで行ったんじゃ……」


 界が嫌な予感がする時特有の眉間にシワを寄せた複雑な表情をした。盟にはその色が読み取れた様だ。


「私、ちょっと様子見てくる!」

「え、そこまでしなくても」


バン!!



 透が言いかけたと同時に事務所の扉が開いた。そこにはグッチのサングラスをかけた女性が仁王立ちしている。
その人物は……


「「鞠 あさみ!?」」


 界と透が同時に驚いた。
今度こそ正真正銘、本物の鞠 あさみであった。


「黒菱興信所ってここなの?」

「そうですが、どういった御用件でしょうか?」


 盟も多少動揺している。


「どういった? しらじらしい! トヨがここに来たんでしょ!?」


 テレビの中での愛らしさは欠片もない、荒々しく、傲慢な態度だった。
トヨとは恐らく、先程依頼に来たマネージャーの豊島 一哉の事だろう。


「トヨ、あたしにストーカーがみたいな事言ってきたでしょ? あれ、何でもないから。依頼取り消してくんない?」