HEMLOCK‐ヘムロック‐





「黒菱興信所の銅 泉です。コレ名刺ですっ! ここの社長サンに会いたいんですが」

「銅様、どう言った御用件で?」


 泉は黒菱探偵社本社――礼二の会社のエントランスに辿り着いていた。
何と言うか、素晴らしい行動力である。


「あ、社員さんの忘れ物届けにきたんですけどォ、それとは別に社長さんに用が……」

「ありがとうございます。それはこちらで預からせて頂きます。社長にはアポは取っていますでしょうか?」

「ア、ポ」


 もちろん取ってなどいない。

 泉は自分の手抜かりに嫌気がさした。

 それにしても同じ兄弟なのに、礼二の会社がこんなに立派とは。オフィスビルの1階を借りる界の事務所とビル全体が会社の礼二の会社では、全然格が違う。

 しかし今更泉も引き返せない。


「でも、界くん――黒菱 界の事でお話しがあるんです」

「黒菱興信所のお方ですか?」


 いきなり後ろから声を掛けられ、泉は驚いて振り返った。

 声をかけた男は、身長182センチの界と張り合える程の長身で、しかも美形だった。(この点、界は負けていた)
知的なメガネとスーツ、少し長めの黒髪がそれを更に際立たせていた。