透が物珍しそうに泉の顔を覗く。界も、テンションが低い泉をかなり心配した。


「お前、鞠 あさみだぞ!? 芸能人だぞ!? いつもの元気どーした!?」

「泉、別にそこまでアサミン好きじゃないし。まぁ頼んでみるよ」

「冗談じゃないわよ、今日は仕事で会うんだから!! 絶対ダメ」



 実は泉に元気が無いのは、鞠 あさみに興味が無いからではなかった。
第一、泉なら興味が無くても芸能人というだけでいつも以上にテンションが上がるだろう。

 泉は呈朝会が捌いていたという『HEMLOCK』について気になっていたのだ。

 何より、その単語を聞いた界達の反応と、そしてそれについて自分にだけ説明をしてくれない事をずっと引きずっていたのだ。







「ねぇ! 『HEMLOCK』って!? ただの麻薬じゃないの!?」


「麻薬だ。まだ日本にはあまり出回ってないらしいが、……絶対に手を出すな」

「泉が麻薬なんかやるわけないじゃんっ!!」




「だったら忘れろ」







 そう言い放った界の声は静かで冷たかった。


しかし盟も透も、界のそんな態度を諫める事はなかった。

泉は自分でも信じられないくらいそれに傷つき、憤っていた。


(絶対みんな何か隠してる。泉がただのアルバイトだから!? もうすぐここ来て1年だし、泉的には興信所の一員のつもりなのにな……)