「ついに、ついにこの日が来た!!」


 この日界は珍しく朝からネクタイを締めていた。靴下も穴あきではないらしい。


「め、メチャメチャ緊張する~」


 普段割と冷静な透までもが浮き足立っている。


「あのね、依頼人がどうであれ仕事は仕事なんだから。相手によって対応変えるなんて特別扱い、ウチでは無いからね!?」


 盟はいい加減、2人の締まりのないソワソワ感に苛立ちを感じていた。その為少し早口になっている。


「だって、今回の依頼人『鞠 あさみ』だぞ!? あの芸能人の」


 鞠(まり)あさみは若くしてモデルからバラエティータレント、女優もこなす今話題の芸能人である。
クリクリの大きな瞳と、ぽってりとしたアヒル口。ちょっと小悪魔的なノリと明るいキャラが売りだ。


「鞠 あさみがこの事務所に来るなんてな」

「サイン頼みてぇ~!! イヤ、でも流石に所長の俺が頼むのはマズいか。
い、泉! お前ならアサミンに頼んでも大丈夫じゃないか? ミーハーぽいし」


 アサミンとは鞠 あさみのニックネームである。


「え? ……あ~うん。まぁ」

「泉、珍しく元気ないな?」