HEMLOCK‐ヘムロック‐

 この会話は透がつけていた2人組と大石の、例の会員制バーでの会話だった。

 大石の言葉は正也が懸念した嫌な予感を全て証明していた。ひょっとしたらそれ以上の最悪を。かもしれない。


「こっ、これは……、そんな」

「恐らくこの『ある生徒の母親』が咲恵様だと推測できます」

「嘘だ!! ウチに! 家に麻薬なんて存在しない! 何かの間違いです!!」


 初老の男の声色は絶望的だった。
席から身を乗り出し、取り消してくれと言わんばかりに界を悲痛な目で見つめた。
しかし界は、正也の叫びから唾が跳ねようが全く動じず、ひたすらに正也を見つめ返した。


「奥様がと言う証拠はありません。それでもこの写真と音声データがあれば、警察が大石から奥様に辿り着くのは必然です。
そしてもし、奥様が“そういうもの”を所持していれば……」

「そんな、そんな。嘘だ」


 正也はがっくりと肩を落とし、浮いた腰を席に戻した。もう界の目を見るのも辛かった。


「警察はこの件について動いています。令状が下りれば、今日にでも呈朝会に捜査が入ります。
もしそこで奥様の事がでれば、弁明の余地すらないでしょう」