「喉とか渇きませんか?」
毎日話し掛けてみても、返事が返ってくる事はない。
翡翠色のカーテンが風にはためく音だけが映の耳に届く。
分かっていながらも話し掛けてしまうのは彼の性なのだろう。
外ばかり眺め、こちらを見ようともしない伯方 まりを残し、映は独り、病室を出た。
無言の空気をやり過ごす為の花瓶の水替えも、今日既に2度目だった。
界が中国に発つ前日。映が病院で偶然に伯方 まりの生存を知った事が、警察サイドが『HEMLOCK』の裏側について知るきっかけとなった。
と言っても透の証言を受け、紅龍會と界やまりの関係まで知っているのは、ある意味当事者に1番近い映と森永刑事だけ。
ある意味界達を庇っている立場だ。
そんな森永刑事の計らい――悪く言えば情報操作で、警察は今『HEMLOCK』とその元凶の紅龍會のみを捜査している。
まりの事は界の妹としてではなく、紅龍會に関係する重要参考人として“保護”と言う名の元、体よく監視している訳だ。
病室も一般病棟から個室に移された。
その為病室にはまりと映2人きり。病院全体には森永刑事の後輩や部下を始め、一課の刑事達が私服で巡回という態勢。
まりにとっては不安と息苦しさこの上ない状況だろう。

