HEMLOCK‐ヘムロック‐

 今まで大人しく黙っていたベンジャミンが、いきなりアイリーンの言葉を遮った。


(『HEMLOCK』“だけじゃない”!? 『HEMLOCK』以外に紅龍會が隠し持ってる何かがあるのか!?)


 界にとって聞き捨てならない台詞だったのだが、次のベンジャミンの行動でその疑惑は雲散霧消となった。


『君が欲しいモノはこれだろう。シンゴ スズキ――いや、“伯方”くん』


 そう言ってベンジャミンは何かを界に放って渡した。
界は突然の事に驚きつつも、反射神経で受け取った。

それは黒いUSB。


『これは……!!』

『それはっ! まさかっ』


 アイリーンは目を剥いてUSBを、そしてベンジャミンを見た。

 彼に銃を突き付けるランディですら予想外だったのか、ポカンと口を開けて状況を眺めている。


『それは「HEMLOCK」の製造データだ』

『ベン! 何をしてるか分かってる!? アイツは紅龍會を潰しに来たのに!?』


『知ってたさ。廊下で会った時からね……。彼が何者かも、何故ここに来たかも何となく』

『えっ?』


 アイリーンは驚きと疑問の混ざった声を上げた。


 ベンジャミンが界を見つめる瞳は酷く悲しげだ。
“悲しい”だけでは言い表せない、深い色と事情を帯びている様だ。