HEMLOCK‐ヘムロック‐


『お前の現状にだよ。悲しい上に憐れだな』


ガン!

 界が言い切った直後には、無数のチェス駒がアイリーンの怒りのままに宙に舞っていた。

コン コン! と音を立てて落下してゆく。


『よっぽど生きて日本に帰りたくない様ね。伯方 界』



『……お前を見てると、辛くなる』

『……はぁ?』


 理解不能と言った顔で首を傾げる。彼女の目は大きく見開かれながらも、怒りで据わっている。


『俺も……、あの日から今日までの人生で何かが違っていたらきっとお前の様になってた。
……と言うか、今この瞬間だって、そうなりそうで怖いんだ。
黒いドロドロした、そんな感情が沸き上がって来て……全部壊したくなる』


 この時界の瞳も瞳孔が開き、未知なる衝動に耐えて震えている事実を、界本人は気付いていなかった。
彼の瞳を見ていたアイリーンだけが目撃者だった。


『それでも俺がそうならずに済んでるのは、どうしても壊したくないものがあるからだ。
この14年間で――、憎しみが薄れるくらい大切なものを手に入れたんだ』