むしろランディの方はこの状況にどこか開き直っている。
ただやり過ごそうとしてるだけかも知れないが。


『で? 一体何の用なわけ ?わざわざアシスタントさん連れて遊びに来たわけじゃないでしょう?
……研究員でも撃ちに来た?』

『きっつい冗談だな~アイリーン』


 アイリーンとはヘスティアの本名だ。
“ヘスティア”も、ランディの“ヘルメス”も、彼らの紅龍會でのコードネームで、組織では常用される。

2人がお互いの本名を知っているのは、ただ仲が良いからである。


『冗談じゃないけど?』


 満面の笑みだったヘスティアが急に真顔になった。
太めのキリっとした眉、大きなエメラルドグリーンの双眼が、ランディを射竦める。


『テロでも起こしに来た?』

『オイ、バカ言うなよ』

『フフ、今のは冗談。でも、あながち間違ってもないでしょ?』


 ヘスティアは再び界を見る。界はおおよその覚悟を決めていた。この女は大体を見抜いていると。


『あなた、私に会いに来たんでしょ?』

『……そうだ』


 界は低い声で答えた。ランディは「言っちゃうの!?」と言わんばかりの表情で隣の界の方を見ている。


『そう思ってこの車に無理やり拾ってもらったの。
ランディが誰か連れて帰ってくるってウワサを聞いたから、色々時期的に考えてアナタだろうなって思って。
……早く会えてよかったでしょ?』