HEMLOCK‐ヘムロック‐




 その日、駆藤 映は先輩刑事の名琵須 光治の見舞いに来ていた。
 
捜査中に、階段から落ちて足を骨折し、短期入院する羽目になった名琵須のギブスに沢山イタズラ書きをして、映は満足しながら帰る所だった。

 真ん中が吹き抜けになっている病棟の、反対側の廊下。
吹き抜けを挟んだガラス越しでも、映は彼の存在に気がついた。

白髪の男、黒菱 界と、その妹、盟が病室に入っていく瞬間を。

一体誰の見舞いだろうと、彼は興味本位で出口とは逆のそちらに足を向けた。


 病室の名札を見て、映は自分の目を疑った。
確かにこの病室だった。中から界の声も聞こえてくる。間違いない。

 その病室に入院している患者は偶然1人だけだった。


『伯方 まり様』


それは14年前に行方不明になった界の本当の妹じゃないか。
 映はイヤな動悸が激しくなってきた。


(まさか、本当に?
何故ここに界の妹が!?)


 思わず通りすがりの若い看護師に慌てて尋ねた。


「すみませんっ、302号室の伯方 まりさんって、いつ頃から入院されているんでしょうか!?」

「えぇ? 困ります。患者様のプライバシーですので」


 映は慌てて警察手帳を出して見せた。看護師もそれで勝手に納得したようだ。