HEMLOCK‐ヘムロック‐




 その頃の黒菱興信所はと言うと、イオがその正体を明かしたあの時以上に絶望的な空気が流れていた。

 出社して初めて、界が紅龍會に1人で行ってしまったと聞いた泉は、目を真っ赤に腫らしながら興信所の来客用ソファーに黙って座っていた。

 しかし、それ以上に重症なのが盟であった。
界に電話を切られた後、彼女は資料室のドアをガン!と開け、そこにいるイオに凄まじい平手打ちを喰らわせた。


イオはこうなる事を覚悟していたのか、始めから起きていたし、盟の仕打ちにも無抵抗だった。

盟は右も、左も、と数回イオを叩いたが、次第には声を上げて泣き崩れる始末。

 透はその様子にどうする事も出来ず、立ちすくんで見ていたし、イオも盟の肩を支えてやる事しか出来なかった。


 盟は肩の手を振り払おうとしたが、気持ちの折れた弱々しいその力では、イオの手を退ける事は出来ず、数十分はそのまま泣いていた。


 しばらくして落ち着き、泉も出社し、全員が自然に事務所に集まった。

 透が氷嚢を――氷嚢など無いので、袋に氷と水を入れただけの物だが。をイオに手渡す。
彼が初めてイオに気遣いを向けた瞬間だった。