礼二が社長になってから黒菱探偵社の会社の社長室に入るのは初めての事だった。
父、灰仁が社長だった頃には無かった赤いソファーが界の目に新しく映える。
しかし彼はイタズラ心で、礼二の社長イスに腰掛けた。
「やっべー。ふっかふか。こんなイスじゃ眠くなるわー」
イスもソファーも灰仁の時とは変わっていたが、机だけは父の物だった。これだけは捨てられなかったのだろうか?
自分のとはあまりにも違う、感嘆の意を表したくなる程隅々まで整理された木製の黒い机。まるで眉目秀麗な礼二の様である。
遂には誘惑に負け、引き出しを開けてしまった。
「なんだ、別に面白いモンはねぇか」
上から順に開けてはただ眺め、仕舞いにしようとした最後の段。それだけ雑に置かれた黒い本が目に入った。
それは本では無く、透と泉が訪ねた時に礼二が見せたアルバムであった。そんな事は界は知りもしないが。
興味に惹かれ、殆ど無意識に界はアルバムを開いた。
懐かしい写真の数々――。
卒業式の妹、学生服の自分、テニスの全国大会の時の兄、健在だった頃の父、たった1度の家族旅行……。

