HEMLOCK‐ヘムロック‐


「なんで話しちゃったんだろ俺」


 界が出て行ったドアを見つめながら、イオは誰もいない事務所で物憂げに呟く。


「でもカイくんならあるいは……。帰って来れそうな気がしてくるよ」


「イオー!!」

「……はーい!」



 資料室から泉が呼ぶ声が聞こえたので、イオは明るい顔を作ってそちらに向かった。








 ガラガラとキャリーバックを引きずりながら、界は携帯を耳にかざしていた。


『界か? どうした?』


 携帯から響くのは礼二の声。仕事中らしく、他の社員の声や物音が聞こえる。


「あのさ、予定よりちょっと早く着きそうでさ」

『会社にか? 約束は4時だろ? まだ2時間くらいあるぞ?』

「ちょっと適当に休ませてくれよ」

『馬鹿言うな。こっちは仕事中だぞ。』

「もう、着いちまったー」


 界はそのまま黒菱探偵社のエントランスに入って行った。


「社長の弟の黒菱 界です」


 界を初めて見る受付嬢は、その頭髪と言動に目をしばたいた。


『……案内は大丈夫だ。通してやってくれ』


 溜め息混じりの礼二の声が、突き出された界の携帯から受付嬢の耳に入った。

 そして事情が読み込めないと言った表情のまま、とりあえず界を通したのだった。