HEMLOCK‐ヘムロック‐


「泉ー! 俺今から兄貴ん所行って来るから。晩飯いらないって盟に言っといてな」


 界は普段の調子で、部屋越しの泉に言ってみせた。

何気無く、他愛なく。



「ハイハーイ! いってら~」


 泉は資料製作に追われ、丁度手が離せないらしい。界には都合が良かった。
そのまま興信所の出入り口から出掛けようと言う時だった。


「カイくん」


 振り向くと、いつの間にかイオがそこに立っていた。


「とうとうなんだね」

「おぅ。」






 両者の間に無言が走る。

そうなる理由が、この1週間、2人の間に“交わされ”た。



「色々世話んなった」

「“あんなの”、お安いご用サ」

「……あいつらに変なマネすんなよ」

「しないよ。これでもカイくんには感謝してるもの。俺」

「特に盟。もし何かしたら……」

「彼女の嫌がる事はしないよ。あ、でも合意なら大丈夫だよね?」


 イオがイタズラっぽく笑う。
彼の盟への想いは、どこか少年時代のままなのかも知れない。


「何が合意だ。ふざけんなバーカ」




バタン。


 そのまま界は興信所のドアを越えて行ってしまった。



 廊下から足音とキャリーバックの引く音が微かに響き、遠くなっていった。