HEMLOCK‐ヘムロック‐




 時間を遡り、今日の朝の事。

 午前8時50分。いつも通り泉は興信所のドアを開く。


「おっはよ~!!」

「おはよう泉」

「おはよ」


 髪をアップにし、メガネを掛けた仕事モードの盟が出迎える。今日は透もすでに出社していた。

 こんな何時も通りに見える興信所だが、実は1週間前からある変化がある。
1つは界の友人の王子様からウサギを貰い、興信所で飼い始めた事。もう1つは……


「おはよ! イズミ♪」


 元、紅龍會のイオが仲間になった事だ。
 爽やかな笑みを湛えた金髪の美男子が興信所の事務用ソファーに腰掛けている様子は、泉にとっては何度見ても見慣れない光景だった。


「おはよーイオ♪」


 しかも意外と仲良しになってたり。
 そんなイオを一瞥し、透は不服そうに眉間にシワを寄せた。


 イオは先週、黒菱興信所の一員となってからは、城戸名義で借りていたマンションを引き払い、興信所に住み着いている。

 事務所にはユニットバスや簡易的な給仕室もあり、元々界と盟も半分住み着いている様なものなので、住む環境として越した事はなかった。

ただし、部屋は増やせないので、資料室とそこにあるロッカーはイオの私物に結構占領されている。


「お、全員揃ったか!!」


 奥の自室から所長の界が分厚い資料を携えて現れ、依頼人用テーブルにそれをドサッと広げた。