月の綺麗な夜であった。

 真夜中に寝ている所を起こされ、眠かったが、突然出掛ける事となった。

この時間帯の独特な冷たい空気、静寂――。まだ11歳の界には新鮮であった。

 今界は母親の後を着いて暗い路地を歩いている。前方の母は少し大きめのボストンバッグを右手に、左手は妹の手を引いて歩いている。
自分も、普段使わない父親の大きめのナップザックを持たされていた。

 こんなに沢山の荷物を持って、一体どこに自分達は向かっているのか。母に尋ねても明確な答えは返ってこなかった。

 ふと、前を歩く妹がこちらを振り向く。自分より若干色素の薄い、こげ茶のまっすぐな髪は母親譲り。
並んで歩く後ろ姿や歩き方は年々母親に似てきている。
そんな彼女の黒目がちな眼が、界を見た。
 

「お兄ちゃん歩くの遅い!」

「うるさいな。まりより俺のが荷物多いんだから仕方ねーだろ!」

「2人共、夜中なんだから静かにしなさい。界、あなたお兄ちゃんで男の子なんだから、我慢しなさい」