HEMLOCK‐ヘムロック‐

 男性は界の表情で、彼が自分に対してどう感じているかを悟った様だった。そして、彼が少年に投げかけた言葉は好奇でも同情でもなかった。


「いつまでも自分が一番不幸だなんて思ってるんじゃない」



 それは黒菱 灰仁と言う男が放った、静かで厳しい一言だった。







 秋には界も14になった。もうすぐ事件から2年。
少年の名前は様々な登録や申し込みを経て、伯方から黒菱 界となる事を許可された。


「こんにちは界くん」


 界の兄となった大学生の男性が荷物を運ぶのを手伝ってくれた。少しクセがあるが、細く、色素の薄い髪と、同じ色の目。自分とは似つかわしくない爽やかな青年。


「君の部屋は2階。俺の隣だ」

 界も成長期で、この半年で15㎝も一気に背が伸びたが、前の階段を上る青年にはまだまだ及ばない。
登る度、成長に軋む膝が痛かった。

 荷物を運ぶ途中、兄の部屋が見えた。その中の“ある物”が界を惹きつけた。


「界くん? ……あぁ、それ?」


 兄は部屋に入り、界を招き入れた。界は荷物を廊下に置いて、そろそろと近づく。
 界が思わず見入ってしまったそれは、白い円柱状のパーツで構成された、高そうな天体望遠鏡だった。