HEMLOCK‐ヘムロック‐



「近づくな!」


 今度はアポロンがビクッと反応した。彼が再び立ち上がり、盟に一歩近づいた瞬間だった。
 界は盟の両肩を掴んで自分の後ろに隠す様に抱き寄せた。

 泉は意味が分からず、オロオロと場の流れを見ていたし、透は咄嗟に手に持っていた携帯で警察を呼ぼうとする。


「そんな事しない方がいいんじゃない?」


 アポロンは透の動きを制した。


「俺がただ捕まる為にここに来て正体をバラしたとでも思ってるの?」


 アポロンの日本語は白人とは思えない程流暢だった。まるで何年も日本に住んでいる人の様だ。

 盟は界の後ろで荒く肩で息をしていた。


「俺が誰か見当ついてんじゃないの? メイのお兄ーさん♪」


 界とアポロンの視線での攻防に、入り込めない異様な空気が立ちこめている。


「透、盟と泉を連れて奥行ってくれ」

「ダメ。メイがこの場を離れる事は許さないよ」


 誰も一歩も動けない。


「君の事、全部バラしてもいいけど?」

「……透と泉は、奥行っててくれ」


 「警察呼ぼうなんて考えない方がいいよ~」とアポロンが付け足す。透が泉を連れて行こうとしたが、泉はそれを頑なに拒んだ。