礼二は中指でイライラとハンドルを叩きながら信号を待っていた。
勇が界と盟についての探りを入れる為に自分の所にいる事を礼二は知っていた。最悪、彼が紅龍會の者であるかもしれない事も……。
それを見張る為に自分の元に勇を縛り付けていたつもりだったが、完全に彼を甘く見ていた。
勇はついに開き直って、大胆な行動に出てしまった。礼二が思い描く最悪のパターンで。
コンコン
外から運転席の窓を叩かれた。
礼二が窓を開けると、詠乃が七半の大型バイクで隣に付けていた。
「彼、動き出したらしいわね」
礼二は透だけでなく、詠乃にも連絡していた。彼は詠乃と連絡が自由に取れる数少ない人物である。
詠乃のバイクからド・ド・ド……という短い重低音が迸る。
「俺のせいだ。解っていながら奴に近付き過ぎた」
「あなたはよくやってたわ。彼を秘書として見張っていなければ、今日という日がもうちょっと早く来ただけよ」
信号が青に変わり、礼二の車と詠乃のバイクは黒菱興信所に向かって急発進した。

