「あの子は違うよ。黒菱 界の妹じゃない」
老婆は再びアポロンに振り返った。何か尋ねたそうな顔をしている。
アポロンは老婆が何も言わずとも、心が読めているかのようだった。
老婆に近づき、車椅子のハンドルを押した。
「もうすぐ、彼女に会わせてあげるからね。もちろん、彼にも――」
老婆は虚ろな表情で空だけ見つめてる。
夕方に向かう風が冷たくざわついていた。
次の日、興信所の空気はやはり妙にぎこちなかった。
「どうしたんだよ? 泉。お前まだ風邪なんじゃねーの?」
「え? もう治ったよ~。今日の泉そんな変かなぁ~?」
「……透? 聞いてる?」
「え? あ、あ~。何だっけ?」
「もう、何なのよ~。今日2人とも変よ」
コンコン
その時扉をノックする音が興信所に響いた。
「え? もしかして依頼人かしら」
「やべっ、俺部屋行ってる!」
界は例の事情で慌てて自室に向かった。
「泉が出るよ! ……は~い」
泉がドアを開けるとそこに立っていたのは礼二の秘書、勇だった。
「こんにちは~!! 泉さん」
今日もクールな印象に似合わない、人懐っこい笑顔。

