橘 正也からの依頼は、妻の橘 咲恵の不倫相手の調査をしてほしいというものだった。



「先日、妻の不倫現場を目撃してしまったんです。相手は私には見覚えのない人物でした」

「それについて奥様に話は?」

「していません。それが離婚とかに発展するかもしれないと思うと……」


 正也は手にハンカチを握って話していた。
別段汗を拭くためではなく、癖なのだろうが、今はその指先が白くなる程に握り締めている。


「では、奥様と離婚されたいという訳ではないのですね」

「はい。私にそのつもりはありません。ただ、相手がどういう男なのか、それだけは知りたいんです」