HEMLOCK‐ヘムロック‐




 湾岸署の出入り口から面会を終えたシスターが出て来た。
そして迎えに来ていた黒張りの車に乗り込む。

 シスターが後部座席に着くと車は静かに発進した。


『何かいい事がありましたか?』


 運転手の男がシスターに尋ねた。シスターは笑みを湛えた表情でドアの縁に肘をつく。


『あの女、鞠 あさみ。なんでアポロンから麻薬を買ってたと思う?』


 そう言うとシスターは被っていた布を取り去った。黒いボレロも脱ぎ捨て、黒いノースリーブのロングワンピだけの出で立ちとなった。

のぞく左の二の腕には、赤い龍の刺青が踊る。

髪を整えると、上げていた前髪が降り、かなり印象が変わった。


『あのコ、アポロンに「祖母の介護に苦しんでる」って言われて、融資まがいに協力してたって言うのよ!
麻薬なんかに手をつける奴が祖母の介護なんてするわけないじゃない。馬鹿かしら』


 女は笑いながら吐き捨てるようにあさみを侮辱した。


『――アポロンに老婆。当たりの様ですね。鞠 あさみは老婆も目撃したのでしょうか?』

『らしいわよ。新宿公園でアポロンが散歩させてる所』


 女はクラッチバックを握り締めた。


『今度こそ逃がさない。アポロン、そして醜いパンドラ。どこまでだって追いかけてやるわ』

『早速新宿公園に向かいます。アルテミス様』