準備はあれ程慌ただしかったのに(忙しいのは何時も盟だけだが)依頼相談は滞りなくあっという間に終わってしまった。


「いやー、久々のまともな依頼だな! 最近兄貴から回ってくるおこぼれ依頼ばっかだったし」


 界曰わく、“所長席”である自分のデスクの椅子にドカッっと腰掛け、クルッと一回転した。
それぞれのデスクに座っている盟や透、依頼人用ソファーでくつろぐ泉と向かい合う形になる。


「でも実際、礼二さんが仕事回してくれなかったらウチに依頼なんて滅多に来ないだろ」


 透の言う“礼二さん”とは界と盟の兄、黒菱 礼二(くろびし れいじ)の事。
彼も探偵であり、しかも大手探偵社社長である。大手故に界の様な小さな興信所にも仕事を提供できるのだ。

 しかし兄弟で、同業であるにも関わらず、ある理由から界と盟が礼二と共に仕事をする事は無い。
会社も袂を分かち、界は独立して私立興信所を一から設立したのだった。


「あと、さっき界、橘さんに担当変えられるみたいな事勝手に言ってたけど。
もし変えろなんて言われたら兄さんにしか頼る宛てないじゃない」