HEMLOCK‐ヘムロック‐



「おはよう、泉」


 ちょうど透も出勤してきた。エレベーターの方から歩いてくる彼の到着を待てず、泉は自ら駆け寄った。


「おはよ! ねぇ~、今日さ、界くんと盟、お父さんのお墓参りの日だったよ!! 忘れてた~」

「そっか! じゃあ今日俺達だけか。ぶっちゃけ界達も忘れてたんじゃないかな?」

「……こないだあんな事件があったばっかだもんね」


 透はプラダのキーケースから事務所の鍵を出してドアを開けた。

 実は界と盟がいないという状況は透にとって初めてではない。毎年2人はこの日だけ透に事務所を任せるのだ。
勿論、滅多に依頼の入る興信所では無いので、通常業務以上の負担は特にない。

しかも今年は泉もいるのでむしろ仕事は少ないだろう。


「でもさ~、まさか『HEM』がこんなに騒がれるなんて思わなかったなぁ」


 応接間を横切り、事務所のさらに奥にある資料室のロッカーにカバンを入れながら泉が話した。


「『HEM』ってただの麻薬じゃないのかなー……」


 ここまで言って透の表情の苦々しさに気付き、慌てて言葉を切った。

 透は過去に騙されたとは言え、『HEMLOCK』に関わる犯罪と関わってしまったからだ。


「えと、俺もどんな薬かはよく知らないんだ……。界は何か知ってる風だったけど」

「え? 界くんが? 何で!?」