HEMLOCK‐ヘムロック‐


「厄介な事になった……」


 界は独り言を呟きながらシャワーを止めた。その頃には十分にお湯に当たった体から僅かに湯気が立ち上っている。

狭い脱衣所で体を拭いているとドア越しに声をかけられた。



「界?」

「盟、おはよ。てか早ぇな」


 長い事2人暮らしなので、ドア越しに妹が居て、自分が裸でも界はさほど気にならなかった。
流石に逆なら気まずいだろうが。


「大丈夫? 寝てる間、結構うなされてたでしょ?」


 盟は早起きしたのでは無く、界のうわごとを聞きつけて起きたのだが、本人はそうとは露程にも思っていない。


「ん、そうか? 気にすんな」


 界は全身を拭くと衣服を着始めた。白のYシャツはもう何年も前から界の普段着である。


「『HEMLOCK』がこんなにマスコミに取り上げられちゃうなんて思わなかった」


 盟がポツリと放った一言が界の動きを一瞬止めた。


「透の時はこんなに騒がれなかった。警察も“外国のクスリ”程度の扱いだったし」