ヒワズウタ ~チヒロ~



彼が見ているのは、私じゃない。


もっと、向こうの誰か。






気がついたら、私は走り出していた。

荷物を掴んで、靴なんて、ちゃんと履けないまま。



夜の風が、額に当たる。

髪がなびいて頬に張りつく。



線路沿いの道を走り、踏み切りを越え、駅前通りに飛び出した。