村井君のことは特に話題に上がらず、いつも通りホームルームが終わった。
「ひな―――」
「小鳥遊、後で職員室に来なさい」
教科書をまとめていた私は、先生に呼び出された。
クラスメイトの盗み見る視線や小さい声も気になったけれど、それより、誰かに呼ばれたような気がして、席の近くを見回す。
………あっ。
でも私に用事がある人なんているわけないよね。
「キョロキョロしなくてもこんな珍しい苗字、お前だけだ」
「……すいません。わかりました」
「ん。忘れないように」
クスクスと笑う声が聞こえた気がして、少し恥ずかしくなる。
なんでこんな時に限ってこんな勘違いしちゃったんだろう。
俯きながら手早く教科書をカバンに詰めると、そそくさと教室を後にした。
