どれくらいの時間が経っただろうか。きがつくと外は真っ暗だった。
 さっきの部屋に行くと夕璃がいた。
「やっと来た」
「ごめん……」
「いいよ。兄貴も喜ぶ」
 夕飯に誘われたが断った。
 帰るとき、夕璃が送ってくれた。
「あの辺まで行くバスあるかな」
「学校の辺りまででいいよ」
 俺達は昨日のように笑って話した。明日もまたお兄さんに会えるみたいに。
 でも違う。わかってるんだ。
 それに俺が悲しがっても仕方がない。今一番悲しいのは夕璃なんだから。
「……無理、するなよ」
 夕璃の顔を見ないで言った。
「うん……」
 しばらく歩くとバス停が見えてきた。
 俺はその時自覚した。
 夕璃が好きだ。
 こんな時に不謹慎だと思う。でもきっとお兄さんは責めないだろう。
 不器用で照れ屋で気まぐれな夕璃が好きだ。側にいないと逃げて行ってしまいそうだ。
 俺は黙って手を握った。夕璃の手は温かかった。
 夕璃が握り返してくれた時、ちょうどバス停についた。そしてちょうどバスが来た。
 握っていた手を離して、俺はバスのステップに足をのせたとき―
「優希」
 後ろから優しい声で俺を呼んだ。夕璃がはじめまして俺を呼んだ。
「じゃあね」
 そしてバスが動いた。