皐月は次の授業の準備をしているのだろう。



机を覗いていて、勇人たちには気づいていないようだった。



「竹ノ内~ぃ!

音楽の教科書貸して~!」



「丈、また忘れものか~?

高くつくぜ~?」



冗談を言いながら、丈と竹ノ内はじゃれあっていた。



竹ノ内は教室の教卓の近くにいたので、勇人と丈も自然と前の方にいる事になった。



じゃれあっている丈達を見ながら、勇人は隣にいる皐月を意識していた。



6年生になった勇人と皐月は、クラスも離れ、お互いに友達も出来た。



周りの目も気になる年頃になり、最近話す回数がかなり減った。



なので、勇人は久しぶりに近くにいる皐月に少し緊張していた。



気づいて欲しくないけど、気づいて欲しい。



複雑な心境だった。


素直に話しかけられない事に、う゛ーとジレンマを感じていると、



「勇ちゃん?」



「あ…、よう。」



気づいてくれた。



その事に嬉しく思いながらも、照れくさくて雑な返事になってしまった。



「今から音楽?」



勇人の持っているリコーダーに気づいたのだろう。



「そう。」


そんな返事を返した瞬間、


なんで、もっと話繋がるような事言えないんだよ、俺!!


と、自分を心の中で責めた。