しかし勇人があの時の子供だとは思わなかったようだ。
皐月の母親とはあの皐月の迷子の時以来、会っていなかった。
皐月の家に通ううちに、家政婦さんからこっそりもらった皐月の手紙に、
母親に見つかったら大変だから、来て大丈夫な時は窓に植物を置いておくと書いてあったのだ。
そのおかげで勇人は皐月の母親と会わずにすんでいた。
あの時から一年と少し。
少し会っただけの子供を皐月の母親も気に留めなかったのだろう。
なので、皐月の母親は目の前にいる少年を見て、一瞬どこかで会ったような気もしたが、
そんな事よりも、
「皐月、友達は選びなさいよ。」と釘をさす方が大事だった。
流石に周りに保護者がいるので、屈(かが)んで、皐月と勇人だけに聞こえるように言った。
皐月と勇人はその言葉に顔を歪めたが、
皐月の母親は勇人を見て、ふっと鼻で笑い、
「帰るわよ。」と皐月を引っ張っていった。
話す間もなく、
「あっ。」と言うしかなかった勇人に、
皐月は母親に引っ張られながらも、
ニコっと笑って手を振った。
そして口パクで「またね。」と言うと母親についていった。
