雰囲気からして母親なんだろうか、と子どもながらに察して、


「さっちゃんは悪くないよ。僕が行こうっと言って連れてったの。」



彼女の母親に怯えながらも、泣いている皐月を救うためにそう嘘をついた。



ごくっと喉が鳴る。手足はブルブル震えている。



皐月の母親はゆうとを嫌なモノを見るように見て、

「聞こえなかったの?

もう皐月に近寄らないで。

早く家に帰りなさい?」



高圧的な言い方にビビりながらもゆうとは踏ん張った。



「さっちゃん泣いてるよ?ギュッてしてあげて?」



ゆうとなりの常識だった。


現にゆうとの母親はゆうとが泣くと抱きしめてくれるのだ。



すると皐月の母親は急に高い声で笑い出し、


「だからあなたみたいな甘ちゃんに育ったのね。低悩な母親が考えそうな事ね。

じゃあ、早く帰ったら?甘えさせてくれるお母さんが待ってるんでしょう?

じゃあね、甘えんぼさん?」



そう言うなり、皐月を引っ張って開き戸の向こうに入ってしまった。



言われた意味は余り分からなかったが、

自分と自分の母親が馬鹿にされていたのは雰囲気で分かり、手が震える程、怒りでいっぱいだった。


けれど、母親に引っ張られる皐月の悲しいそうな顔がこちらに向いている事に気づき、


ゆうとは、

「またね!」

と口に出さず、口パクで伝えた。



向こうにも伝わったのだろう。皐月も頷いていた。


そして、家のドアがパタンと閉まった。